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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)1872号 判決 1975年10月17日

原告

遠藤浄子こと

太田浄子

右訴訟代理人

柳沼八郎

外八名

被告

右代表者法務大臣

稲葉修

右指定代理人

大内俊身

外一名

被告

東京都

右代表者知事

美濃部亮吉

右訴訟代理人

吉原歓吉

右指定代理人

池田良賢

外二名

被告国補助参加人

羽鳥定雄

右訴訟代理人

山下卯吉

外五名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告らは各自原告に対して金一〇〇万円およびこれらに対する昭和四四年一一月七日から支払ずみまで年五分の金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する被告らの答弁

主文同旨

(被告国)仮執行免脱宣言

第二  当事者の主張

一、請求原因

1(原告の地位等)

原告は、昭和四四年一一月当時、東京女子大学に在籍する学生であり、同大学全学闘争委員会委員長の地位にあつた。原告は、同年一〇月三一日同大学の学園紛争に関連して、他の学生数名とともに、住居侵入罪の被疑事実で逮捕され、同日から新宿警察署に嘱託留置されたが、同年一一月四日勾留されて引続き同署に留置された上同年一一月一一日釈放された。

2(警察官らの暴行)

原告は、右勾留中の同年一一月六日午前一一時ころ警視庁新宿警察署男子独房室において補助参加人である同署長羽鳥定雄の指示命令を受けた同署勤務の看守三名から次のような暴行を受けた。

即ち、屈強な男子看守三名が、突然、原告の収容されている独房に入り込み、原告を押し倒して、床上に俯せにさせ、一人の看守が原告の背中を上から押しつける一方、他の看守二名がタオルで、原告の口から鼻にかけ猿轡を噛せ、両手を後手に捩り上げてから両手首を柔道衣の帯で固く縛り上げ、更に両足を膝から後方に曲げ、踝部分を柔道衣の帯で縛り上げ、右縛つた両手と両足を別のロープで連結させて、いわゆる逆海老固めにして、身動きのできない不自然な形のまま二〇分ないし三〇分の間床上に放置した。その間原告は手足の帯を解こうとしたが、看守らは笑いながら、原告の姿を見て、帯が多少緩むと、一旦帯を解き又堅く結ぶなどの所為に及んだ。

3(暴行行為に至るまでの事実経過)<以下―略>

理由

一請求原因1項の事実は、当事者間に争いがない。

二そこで、原告が、昭和四四年一〇月三一日に新宿警察署に嘱託留置されてから、同年一一月六日に、戒具が使用されるまでの経過について順次検討するに、<証拠>を総合すると、次の各事実が認められ、その認定に反する証拠についてはそれぞれの個所で判断するほかその各認定を覆すに足りる証拠はない。

1  同年一〇月三一日、午後八時過ぎころ、原告他九名の女子学生が、三鷹警察署から新宿警察署へ嘱託留置されたが、原告は、留置に際して行なわれる留置人名簿の作成にあたつては、全部黙秘していたが、浴場における身体検査の際に婦人看守から原告の着用していたジヤンパーの袖口のちぎれていた理由を質問されるや、「てめえら同僚に不当逮捕されたときに取られた。てめえら縫えよ。」と大声を発し、又看守係員の留置人心得の説明に対しても、「すぐ規則だの何だのつて言うけれども、税金泥棒の癖に大きな顔するな。」「来年は、お前達を入れてやる。ギロチンだぞ。」と叫んで、看守らの制止も聞かず、ひきつづき午後一一時近くまで騒ぎ続けた。ところでこの日、原告等四名の女子学生は女子第一房へ、その他の女子学生は三名毎に各女子房に留置された。右認定に反する証人荒木優子の証言及び原告本人尋問の結果は採用し難い。

2  一一月二日、起床後、原告他女子学生は房内が寒いとして毛布を各房に一枚宛残すように要求したところ、女子学生のうち、五味章子及び薬師(旧姓吉瀬)由美子がそれぞれ男子留置場空房の一二房及び一四房へ移された。これは、女子房で数名が騒ぐと、他の房に伝播するのでこれを静めるために担当看守稲村虎次が講じた措置であつたが、これに対して、女子学生らは金網を一勢に叩いて大声を出し抗議を行なつた。右認定に反する証人荒木優子の証言及び原告本人尋問の結果は採用しない。

3  翌一一月三日、前記の措置に対して、女子学生は、引き続き女子房へ戻すよう抗議したところ、担当看守金子喜一は、午前九時半ころ原告を男子留置場の一一房へ、荒木優子を同じく一三房へ移し、前日移した五味を女子房へ戻した。

ところで、新宿警察署では、留置人に対して被疑者留置規則二六条所定の運動を署内の運動場において行なわせ、その際同規則実施要綱第三13(20)により喫煙を許容していた。しかるに、原告、前記薬師、同荒木は、午前一〇時ころ、男子留置場付設の屋内の運動場に出たものの留置人一般が行なう運動をしないで、火のついたタバコを持つて歩き廻り、運動場付設の窓から灰を捨て、担当看守高橋実が取り上げようとすると、吸穀を窓外へ投下した。また、原告は窓枠に足を掛けて、上段の鉄柵子に掴つて、顔を擦り付けて唾を吐いたり、「我々は、不当逮捕されている。」「助けてくれ、断固戦うぞ。」と大声を発した。当時、運動場の西南窓の下は、仮庁舎の解体作業に伴い、ベニア板等が散乱、集積されており、火気に対して危険な状態にあつたので、前記高橋は、当日以降の喫煙を禁止して、各房へ戻したが、原告他女子学生は、房へ戻つてからも房内付設の便所の障壁から飛び降りたり、全網を叩いたり「頑張れ。」と他の房の在監者に声援を送つたりして騒いだ。当日の担当看守は、同日午前一〇時三〇分ころ、藤井誠子を男子留置場の一二房へ移し、前記薬師を女子房へ戻した。証人荒木、同薬師及び原告は、女子学生のいずれも、運動中にも、男子房へ戻つてからも騒がなかつた旨の供述をなすが、一方、同日インターナシヨナルを合唱し、シユプレヒコールを行なつたとの証人荒木の証言、房内の水洗便所の使用を求める時に大きな声を出したとの証人薬師の供述や、女子房の学生の男子房への転房などの事実に照らすと、前記各証言は、たやすく措信し難い。又証人高橋実の証言中前記認定に反する部分は採用しない。

4  一一月五日、夕食後、担当看守金子は、差入を受けて気持が和らいだ前記藤井と世間話をした際、看守の言うことを聞くのであれば、翌日からでも煙草が吸える旨告げた。

ところが、翌六日午前一〇時一〇分ころ、右金子らと交替した当日の担当看守高橋他三名が、原告、藤井、荒木を二階の運動場へ連れて出たところ、原告らは、煙草を吸わせるように要求し、右高橋がこれを断わると、「吸わせると言つたのに何故吸わせないのだ。話が違う。」と大声で詰め寄り、右高橋が、運動を打切つて原告他二名を男子留置場へ収容しようとすると、原告らは看守の手を摺り抜けて運動場のほぼ中央部に坐り込んだ。そこで、東巡査が荒木、永尾巡査が藤井、佐藤巡査が原告を連れて男子留置場へ戻そうとしたが、この際原告は、運動場の扉に掴つて、これを拒否する姿勢を示した他、「煙草を吸わせろ。署長を出せ。」と叫び、騒ぎに驚いて様子を見るために右房近くに来ていた、当時新宿警察署長である補助参加人が、「私が署長だ」と名乗るや、原告の抗議はますます激しくなり「てめえが署長か、これをどうしてくれるんだ。総括しろ。」と叫び、看守らが、原告を一一房へ収容しようとすると、原告は、房のドアにつかまつて抵抗したりする他、一一房入室後も、興奮して、金網を素手で叩いたり、足で蹴つたり、床を激しく踏み鳴して、半狂乱のような状態となつた。そして男子を収容している他の房でも、金網をゆすつたり、「ふざけたアマだ。ぶつ殺すぞ。」と罵り始め、房内は騒然とし、収まる状態でなくなつた。補助参加人及び高橋は、「やめなさい。静かにしなさい。」と制止したが、原告は、容易に止めないので、補助参加人は戒具を使用する旨の警告を発して戒具使用を決心した。右認定に反する証拠、すなわち原告とともに運動を行なつた女子学生が薬師であるとする証人高橋実、同稲村虎次、同佐藤正信の証言部分及び、原告が、金網を素手で叩いたことも、足で蹴つたこともない旨の、或は補助参加人が戒具使用の警告を事前に与えなかつた旨の原告本人の各供述は、いずれも採用しない。

5  そこで補助参加人は、看守係に対して戒具の使用を命じたところ、吉松巡査が、手錠を持参したので、これを柔道衣の帯にかえさせて、右帯を用いて縛るように命じた。それに応じて、前記稲村、佐藤、東が原告を押えて俯せにし、両手を後ろにして一本の柔道衣の帯を二回廻して両手首を縛つたが、原告は、猶も大声を発して両足をばたつかせているので、右佐藤、東が、原告の両足の踝部分に別の帯を一回廻して縛つた。しかしながら、原告は大声を出し続けるので、補助参加人は、タオルを持参させて、これによる防声具の使用を命じた。右両名は、二重折りにしたタオルの中央を原告の鼻下から顎の部分に当て、その両端を首の後方で縛つたが、口腔内には何物も挿入しなかつた。原告は、猶、両足で床を蹴りつけ、或は身体を左右に動かして転輾するので、補助参加人は、看守係に命じ、手を縛つた帯と踝を縛つた帯の末端とを連結させた。然る後に、補助参加人は、看守らに監視を命じて署長室に戻つたが、原告は、四、五分経過後に顎を動かしてタオルを解き、次いで手、足の帯を順に解き、再び大声を発したので、稲村は、佐藤及び中西巡査と、一一房に入り、前と同様の拘束方法で縛り直した。しかしながら、原告は、三、四分経過した後、足を解いて騒ぎ出したので、右看守らは再度足を縛り直したが、又、五分程経過後に、原告は自力で前同様タオル、帯を解き、今度は、房の中央に坐つて沈静したので、看守らは房から前記帯、タオルを取り出して、補助参加人にその旨を報告し、同人はこれを受けて、戒具の使用を解除した。原告は、右看守らの戒具の行使により受傷はしなかつた。

ところで、原告は、両手と両足を帯で縛つた上、別のロープを使用して連結させ、いわゆる逆海老固めの状態とし、又看守らの身体拘束は、一気呵成に行なわれたものであり、逆海老固めに縛り上げられた原告の膝は、直角よりも深く曲げられ、ほとんど身動きがとれなかつたこと、及び補助参加人、看守らは原告を縛り上げるやそのまま放置して立去り、その後四、五分に一回看守が見廻りに来たのみである旨供述するが、前記認定に用いた各証拠、特に帯の使用の状況については数分の所要時間で三回とも自力で比較的容易に緊縛を解いたと認められること、に照らしてその供述はいずれも措信しがたい。

三右事実のもとにおいて、補助参加人及び看守らの行なつた原告に対する戒具使用が適法なものであるか否かにつき判断する。

1  法的根拠及びその要件

監獄法一九条一項は、在監者に対する戒具使用について、在監者が逃走、暴行若しくは自殺の虞れがあるときには戒具を使用できる旨を規定している。

ところで留置場は、元来刑事訴訟法による被疑者等の留置のための施設であつて、地方公共団体の事務として設置、管理され(地方自治法二条三項六号)、警察法一二条、同施行令一三条に基づいて国家公安委員会が同法五条二項一二号の事務に関して制定した被疑者留置規則(昭和三二年国家公安委員会規則第四号)、同規則に基づく留置場管理の適正を期するため警視庁刑事部長が発した通達である同実施要綱等に定めるところに従つて運営されている。そして監獄法一条三項は、「警察官署ニ附属スル留置場ハ、之ヲ監獄ニ代用スルコトヲ得」るものとしているが、これは、監獄のない地方で、被疑者、被告人及び短期受刑者を拘束する必要や、護送中の受刑者等の宿泊の必要や監獄の収容力の関係で拘禁できないときのためなどの実際的な理由と、旧監獄法で警察署内の留置場をも監獄の一種としていた沿革的な理由によるものである。もとより留置場と監獄とは人的組織、物的施設を異にするから代用監獄となつたからといつて監獄法のすべての規定がこれに適用されるとすることはできないが、その処遇については、同法及び同法施行規則の規定が適用されると言うべきであるところ戒具使用に関する監獄法一九条は、拘禁施設の安全及び秩序に反する行為等を予想して、これを予防或は制止する目的で規定されたものであつて、いわば拘禁目的の達成のための基本的な規定と言うことができるので、いわゆる代用監獄であつても右法条の適用があると言うべきである。

一方、被疑者留置規則二〇条は、警察署留置場に留置中の被疑者に対して、留置場の安全、秩序維持、被疑者の自殺等の制止を目的として戒具使用に関する定めをしており、その要件は監獄法一九条とほぼ同様であるが、代用監獄となつた場合には、監獄法一九条の適用がある以上、同規則二〇条を準用する余地はないものと言うべきである(同規則三五条一項本文参照)。

本件において、原告は前記認定事実のとおりの行為に及び、補助参加人並びに担当看守から再三に亘る注意、制止を受けたにも拘わらず、大声を発し、扉、床を叩いて有形力を行使して、留置場全体の平穏を害し、その管理、秩序維持に支障を来たすべき事態を招来させたので、右監獄法一九条の「暴行」に該当し、戒具使用の要件は存在したものと言うことができる。

そうであるならば、本件において補助参加人が看守らに命じ、前記一一房で、暴行をなす原告に対してこれを制止するため捕繩、防声具として戒具使用に及んだことは必要やむを得ない措置であつて違法な職務執行と解することはできない。

2  使用戒具の種類

前記認定のとおり、本件において補助参加人は、柔道衣の帯を捕繩とし、タオルを防声具として使用した。戒具の種類は、監獄法一九条二項の委任に基づいて、同法施行規則四八条一項に鎮静衣、防声具、手錠、捕繩の四種類が定められており、戒具の製式は、同施行規則四八条二項の定めに基づいて、昭和四年五月司法省訓令甲行七四〇号「戒具製式改訂の件」で定められているが本件帯及びタオルは、右訓令で定められた製式によるものではない。

ところで在監者の戒護の任にある者は、在監者の規律違反、暴行を制止するときには、関係法令を遵守し、職権濫用にわたることのないよう厳に注意し、慎重な態度をもつてこれに臨み、在監者の人権をいささかも侵害しないよう心掛けなければならないことはもとより、特に戒具の使用にあたつては、懲戒の具に供したりすることのないよう十分に留意しなければならないが、更に、法定外の戒具が、不用意に使用されるならば、在監者の生命身体に不測の危険を生ずる虞れが存し、また在監者の人権を侵害する危険性も高いと考えられ、右のような危険を防止するためにも、前記訓令において戒具の製式が規定されていると解せられるから、法定外の戒具を使用することは、原則として許されないというべきである。

しかし、当時留置場に法定戒具が完備されていなかつた実情や、それにも拘わらず保安や紀律遵守の目的から、行なわれる戒具使用の必要性は皆無と言えないこと等の理由から、法定外の戒具使用をすべて違法視することはできない。戒具の製式が前記訓令で予め定められていることからして、法定外の戒具使用が適法とされるためには、法定戒具の使用の要件が存し、法定の戒具を使用するよりも本人に与える苦痛或は生命身体に対する危険が少ないと認められる場合であり、且つ、法定戒具による余裕がない緊急やむを得ない場合か又は法定戒具を使用することが相当でない場合である諸要件を具備することが必要であると解せられる。

よつて按ずるに、法定戒具の要件が備わつていたことは前記三1のとおりである。次に本人に与える苦痛や生命、身体に対する危険の度合に関しては、確かに柔道衣の帯もタオルも、これを放置すると首に巻きついて窒息事故を起こす虞れや自殺の手段となり得て極めて危険な性質を有しているといえるが、本件においては、看守は柔道衣の帯で手首を二回、別の帯で両足の踝部分を一回それぞれ廻して縛り、余つた末端部分を連結させて原告の首に巻きつくのを防止し、タオルについては、窒息を防ぐために鼻孔部を避けて縛つたのみならず、看守三名が、原告の房内を監視して視野外に放置することなく、また原告が沈静した後直ちに帯及びタオルを房内から引揚げたこと等の配慮が窺われる。右用法によつて、帯及びタオルにより生ずる事故の防止の為めの配慮はなされたものというべきであり、かえつて、房内がコンクリート障壁で区画された水洗便所があり(この事実は<証拠>により認めることができる)、金属製の手錠を使用するときは身体傷害の虞れがあるというべく、この点を考慮するならば、法定の戒具を使用するよりも右帯及びタオルを使用した方が本人に与える苦痛或は生命、身体に対する危険が少ないと認めることができる。

更に緊急性の点についてみるならば、前記認定どおり、原告は一一房へ入室してからもひき続き激しく叫び声をあげたり、素手で金網を強く叩き始めたりしたこと、当時新宿警察署には自傷事故を防止するための鎮静房の施設がなかつたこと(証人高橋実の証言により認める)からすれば、制止のための緊急やむを得ない措置であつたといわざるを得ず、結局、補助参加人らの帯及びタオルの選択には、違法がなかつたものと解することができる。

3  戒具使用の方法及び程度

暴行をなす在監者に対して、戒具を用いてこれを制止することが、前記1、2の要件を充足しても、戒具行使の程度は、制止、鎮圧の範囲内の必要最少限のものでなければならず、その程度を逸脱した場合には違法となることは、もとより当然である。

補助参加人が、原告の抵抗に応じて、手及び足の捕繩、防声具の使用、帯の末端の連結と軽い戒具から始めて次の戒具に移行したこと、タオルによる防声具の使用に当つては、口腔内に何物も挿入していないこと、鼻孔からの呼吸に支障を来さないように配慮したこと、二本の柔道衣の帯の各末端部分を連結したことは前記認定のとおりである。

ところで両手を後ろに回して縛つた方法は、殊更原告に不自然な姿勢を強制したものと言うことはできず、又二本の柔道衣の帯の連結も危険を防止する趣旨で取られた措置で、三回ともいずれも緊縛されてから四、五分経過後に原告自ら帯を解いていることからすれば、原告が俯せの状態のままで、膝を更に深く曲げることはできたものと解せられ、原告の背部を反らせて苦痛を増大させる姿勢を強制したとは到底推認できない。更に本件戒具の使用時間が三回合計しても約一〇分の短時間のものであつたこと、原告が平静に戻るや直ちに戒具使用を中止したことからしても、本件戒具の行使は、戒護の目的達成のため必要な範囲内のものであつて、その程度を超えた違法なものと解することはできない。

従つて補助参加人らの本件職務の執行は、法定戒具の使用の要件を具備し且つ、臨機に応じて選択した戒具の種類、具体的に行使した方法、程度、時間から判断して違法視することはできないので、右執行が違法である旨の原告の主張は結局認められない。

四よつて原告のその余の主張を判断するまでもなく、原告の被告らに対する請求は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(柏原允 小倉顕 飯村敏明)

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